iモードのロゴにまつわる話。

iモードというネーミングの話を書いたついでにiモードロゴについても触れておく。

ネーミングが決まれば商標を登録する必要がある。この頃はネットで商標登録されているかどうかを即座に調べられるような便利なものはないので、まずは知財経由で商標登録できるかどうかを確認しなければならなかった。せっかく考えたネーミングもどこかで使われていたら水の泡だ。運よく出願したい分類にかぶるようなものはなかったのだが*1弁理士から「そもそも「i」という一般的なものに「モード」をつけて「iモード」と登録することそのものが難しいかもしれないので、ロゴも作って意匠登録も並行した方がよい」とのアドバイスがあり、商標登録の出願手続きをしながらロゴを制作することになった。*2

ロゴもネーミングと同じように当時(今も?)のドコモのセオリーである代理店のコンペという正攻法からはじめたが、真理さんと代理店にどうオリエンしても男性的、未来的、機能的なロゴばかり出てくるので早々に見切りをつけた。これは代理店が悪いというよりも、今までドコモからの発注依頼がそういったタイプのものばかりで、iモードが目指しているようなタイプのサービスが彼らにとって初めて、ということが大きかったのだろう。

そこで真理さんとは旧知の仲である、サン・アドのデザイナーであるナガクラトモヒコさんに依頼することになった。真理さんとはリクルートの「とらばーゆ」ロゴや表紙のデザインなどを通じてのお付き合いである。ナガクラトモヒコ氏の名前は知らなくても彼のアートワークであるおかいものクマ西武百貨店のおかいものクマを知る人は多いだろう。当時サン・アドは改築前のパレスホテルに入っていて、そこで出会ったナガクラさんは理知的でとても穏やかな方でこちらのオリエンもすんなり理解していただけ*3、「なんかすごいものが出てくるに違いない」とワクワクしたことは今でもよく覚えている。

そうして出てきたiモードのロゴは4種類。しかもどれも甲乙つけがたいデキ。これはうれしい悲鳴ともいうべきで、メンバー内で多数決をしても完全に票が割れてしまいほど、どれも素晴らしいデザインだった。数日間ずっと悩んだ真理さんが最終的に決めたのだが、決め手は「プルプルしていてカワイイから」とのこと。僕がいいと思ったロゴはもう少し男性的だったので、今から思えばやはり真理さんの見立てがよかったのだと思う。真理さんは上層部には「この曲線が無線の揺らぎを表現してまして」なんてもっともらしく説明していたが、そのあたりはうまく言ったもので結局「プルプルしていてカワイイから」決まった。

ちなみにナガクラさんが持ってきてくれたロゴはすべて黄色だった。こちらから黄色を特に指定したわけでもなく、ナガクラさんも「別に他の色に変えても構いません」とおっしゃっていたのだが、あまりにも黄色のiモードロゴがしっくりしていて誰も変えることが想像できず、そのまま採用になった。先進的なイメージといえばブルーに代表される寒色系だが、親しみやすいイメージといえばやはり暖色系だ。真理さんが「i」をひっくり返せば「!」になるわよね、とよく言っていたが、黄色は注意・注目を表す色だからそういう点でもしっくりきていたのかもしれない。さらに当時のドコモのCIが赤・緑・青だったので黄色とのバランスもよかったし、当時黄色をイメージカラーにしているサービスもほとんどなかった。なるべくして黄色になったのだと思う。

こうしてできたiモードロゴ。フランスのブイグテレコムでサービスが始まってパリの街中で見かけたり、F1マシンのルノーの車体やドライバーにデザインされたときは本当にうれしかった。ドコモにとってもずっと大切に育てていくべきブランドだったと思うが、それを自らの手で捨ててしまったのは本当に残念でならない。

*1:HOYAがEYEMODEという商標を登録していたが、対象の分類が眼鏡に限定されていたので問題なかった

*2:最終的にiモードの商標はアイモードとi-modeとで登録されている。英字ではハイフンをつけることで登録が可能になった。

*3:真理語を解する方だったからかもしれない(笑)