松永真理さんとの出会い。
97年4月。公募によって晴れて僕は法人営業部ゲートウェイビジネス担当に配属された。この部署に配属されたのはNECから出向の川端正樹さんというシステムの部長と同じく公募で採用された矢部俊明さんらシステム担当の2名、マーケティング担当は我妻智さんと同期の笹川貴生くんと僕のたった6名の部隊だった。しかも法人営業部の一角を間借りしたスペースにひっそりとお邪魔するというなんとも寂しいスタート。榎さんは法人営業部から専任になるまで数か月かかるということで非常勤。われわれの上司にはリクルートの女性編集長が転職してくる、ということは榎さんから聞いていたが、当面は上司もおらず、4月いっぱいは常駐していたマッキンゼーのコンサルからロジカル思考を学んだりサービスのブレストをする、といういきなりの放任状態からはじまり、気楽な反面これで大丈夫なのかなあという得も言われぬ不安の中、iモード開発への第一歩がはじまった。
とらばーゆ編集長からまさしくとらばーゆされた松永真理さんと初めてお会いしたのは、銀座の研修施設でブレストをしていた4月14日のことだ。夜にゲスト参加で榎さんがわれわれに真理さんを紹介してくれたのだが、真理さんは開口一番「ウッズ見た!?ウッズ!すごいわよね!」と出てくる言葉はとにかくウッズウッズと大興奮。ちょうどタイガーウッズが史上最年少でマスターズ・トーナメントを史上最年少の21歳3か月で優勝した日だったのだ。その場にいた誰もが真理さんのペースに飲まれた。今までに接したことのない全然違う業界の人というのが僕の第一印象だった。おかげで真理さんと話すにはつねに話題のニュースを仕入れておかなければならず、そういう真理さんの感度みたいなものから学べたことは大きかった。
そして5月の連休明け。地下鉄神谷町駅直上に位置する神谷町森ビル4Fに新オフィスに移転しゲートウェイビジネス部が発足、真理さんも合流する。真理さんの上司としての最初の指示は「絶対に真理部長と呼ばないでちょうだい。まり、の後にぶちょうという響きが続くのは私の美的感覚に合わないの。これからは真理さん、と呼ぶように。」というものだった。だだ広いオフィスの1/3しかまだ机が埋っておらず残りのスペースで笹川くんが本社までの行き来のために購入した自転車を乗り回していたのが印象的だった。これは真理さんも印象深かったらしく『iモード事件』にも書いている。
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真理さんの発案で銀座のホテル西洋のスイートルームを借りテレビ業界や出版業界たちを招待してブレインストーミングをする、みたいなことも行った。放送作家の小山薫堂さんなど著名な方がいらっしゃって携帯電話でどんなことができたらおもしろいか、というテーマで話し合ったりした。榎さんの記事によればその後、国税対策などが大変だったようである(笑)。
クラブ真理でのブレストの日々
真理さんによっていい意味で「ドコモらしくない」「NTTらしくない」風が吹き込まれ、自由な発想からサービスのコンセプトが徐々に固まっていった。それまでこんな新技術があるからサービスを作ろう、といういわゆる技術オリエンテッドでサービスを企画・開発してきたドコモで、初めてユーザーオリエンテッドなサービスが生まれようとしていた。
余談だが、真理さんと本屋に行って大量に購入した企画資料の中に占いのソフトウェアがあった。(さらに余談だがこの資料を買うにあたっていかにもNTTらしい事件があり、それは榎さんの記事に詳しい)「栗ちゃん、早速やってみましょうよ!」と真理さん。といっても真理さんはまったくの機械音痴なので僕がPCにソフトをインストール、「真理さん、生年月日を教えてください」と聞いて入力しながらはたと気がつく。「真理さん、この間教えてもらった年齢と違いませんか!?」そう、真理さんは部下の僕にまでサバを読んでいたのだ。「人間って占いだと正確な生年月日を伝えるのね。発見だわ。」そう、個人情報の生年月日を正確に確実に取得できるのは占いコンテンツなのだ。こういうところにすぐに気づいて切り返すのがいかにも真理さんらしい。